「怒り」鑑賞

先日、映画「怒り」を鑑賞してきたので、その感想を書きたいと思います。ネタバレも含みますのでご注意を。

 

 

 

 

私は、先に原作を読んでしまっていたので、どうしても「あれ?あのシーンは?あの人は?」という鑑賞の仕方になってしまい反省。

 

前半は原作のダイジェストといった感じで、原作を読んでいない人は話を掴みづらいのではないかと思いました。まぁ、3つ同時に話が進むから仕方ないのだけれども、少し物足りなく感じてしまいました。

 

後半は3人のうち犯人はどいつなんだというドキドキ感があって、とても見ごたえがありました。犯人の手配写真も絶妙に3人の顔がミックスされていて、見るたびに印象が変わるのが面白かった。また、原作と映画では結末への話の運び方が違うと聞いていたので見る前は不安だったのですが、映画の方が広瀬すずさん演じる泉と佐久本宝さん演じる辰哉の「怒り」が色濃く表現されていてとても良かったです。

 

あと、思った以上に市橋容疑者の事件に寄せてあるなぁという印象を受けました。(手配の写真とか自分で整形をしようとするシーンなど)

 

・東京編

 

妻夫木聡さんと綾野剛さんの同居が公開前に話題になりました。そういった深い役作りのおかげか、2人の間にとてもいい雰囲気が漂っており素晴らしかった。また、ゲイの男性を「オネエ」といったようなキャラにすることなく、あそこまでリアルに描写している作品はあまりないと思うので、その辺もよかったです。

 

この東京編、2人の演技は素晴らしかったのですが、やはり原作から削られていたシーンが多く、少し物足りない部分も。まず、優馬の兄夫妻が出てこなかったのが残念。原作だと、この2人を通して優馬と直人のお互いの思いであったり、優馬の内面が表現されていたような気がします。ですので、この2人と一緒のシーンを映画でも観てみたかった。

 

でもやっぱり最後の優馬が泣きながら通りを歩くシーンにはもらい泣きしてしまいました。

 

・千葉編

 

千葉編はこの物語の中でも唯一目に見えた救いがあります。原作を読んでいても田代君から電話が掛かってきた時には言葉では言い表せないような安堵感がありました。

 

渡辺謙さん演じる、本当に漁協で働いていそうなお父さん役もピッタリでしたが、宮崎あおいさんが今までに見たこともないような演技をしていて驚きました。でも、宮崎さんあの体形で7キロも太ったというのは本当でしょうか?普通にほっそりして見えたので、心の中で「元がどれだけ細いんだよっ!」と思わずツッコミを入れてしまいました(笑)

 

松山ケンイチさんは最初の雨の中で自転車を漕いでいるシーンが何ともいえない怪しさがあってとても良かったです。また、愛子が警察に田代のことを通報し鑑識結果が出るシーンは無音となり、観ている人には結果がどっちだったのかわからないようにする演出が面白かったです。

 

 

・沖縄編

 

原作を読んでいたので展開はわかっていたつもりですが、映像で見せられるとやっぱり重いしキツい。

 

私は普段あまり恋愛モノの映画やドラマを見ないので、広瀬すずさんの演技をガッツリ見たのは今回が初めてでしたが、非常に良かった。オーディションでこの役を勝ち取ったということですが、このようなキツい役を最後まで演じきったのは凄いことです。

でも、やはりあの米兵から暴行を受けるシーンはキツかったですね。物語の中で非常に重要なシーンであることは分かってはいますが、あまりにも生々しく、しかも結構長尺だったのでかなりびっくりしてしまいました。あのシーンがあるのにPG12で大丈夫だったのでしょうか。

 

新人の佐久本宝さんの演技も素晴らしかったです。泉を暴行事件の時に助けられなかった後悔や憤りを、森山未來さん演じる田中と分かち合っていたはずなのに裏切られてしまう。その信じていたからこその「怒り」があの田中と対峙するシーンで色濃く表現されていたと思います。田中を刺した後、壁に書かれていた泉を侮辱するような落書きを必死に消そうとするシーンは何ともいえない気持ちになりました。

 

映画は泉の叫びで終わります。辰哉が捕まったあと、泉は廃墟に一人で行き、田中が書いた「怒」という文字と泉の暴行事件を嘲笑うかのような落書きを見つけます。そしてそれを辰哉が必死で消そうとした痕跡を見つけ、なぜ辰哉が田中を殺したのかを悟り絶叫します。そして沖縄の美しい海から遠くを見つめるような泉の表情で、この物語は終わります。

 

私は最後の泉の表情に力強さを感じました。暴行事件のあと「泣いたって怒ったって誰もわかってくれない。戦えない。」と辰哉に言っていた泉でしたが、廃墟の中で辰哉の「怒り」を感じ取った後、泉の中にも「怒り」の感情が灯ったのではないでしょうか。

 

 

・山神一也について

 

八王子夫婦殺害事件の犯人である山神一也という男は、彼の部屋や壁にあった落書きから推察できるように、小さなことですぐイライラする怒りっぽい性格であることが伺えます。また、映画の公開前に刊行された『吉田修一の世界』という本に収録されている「八つの証言」を読むと、山神という男は少年時代から問題を抱えており、いつ事件を起こしても不思議ではないような性格であるように思えました。そのため、たまたま八王子事件の当日にあった、仕事現場の間違いや雇先の対応によって、今まで積み重なっていた「怒り」が爆発してしまったのではないでしょうか。

 

それにしても、森山未來さんの演技めちゃくちゃ怖かったです。宿泊客の荷物をブン投げているシーンとか、いきなり民宿の中で暴れるシーンに何とも言えない不気味さを感じました。

 

 

 

映画を観終わるとなんとも言えない疲労感でぐったりしましたが、観てよかったと思いました。八王子殺人事件の時の犯人のシルエットなどもう一回確認したいシーンなどがたくさんあるので、DVDが出たらもう一回見返そうと思います。